再犯防止に福祉の視点で支援 刑事司法ソーシャルワーカー講座
最近は警察などに検挙された人のおよそ2人に1人が再犯者となり、再犯の防止が課題になっています。
そうした中、東京社会福祉士会は、罪を犯した人の立ち直りを福祉の視点から支援する「刑事司法ソーシャルワーカー」の養成に力を入れています。
刑事司法ソーシャルワーカーとは、罪を犯した人の中でも高齢者や障害者など立ち直りが難しい人たちを支援する社会福祉士のことで、東京社会福祉士会が都内の弁護士会と連携して養成しています。
その講座が18日と19日、都内で開かれました。
社会福祉士20人余りが参加し、逮捕や起訴、裁判などの刑事司法の知識や拘置所での面会方法、社会復帰に向けた計画書の作成などについて学びました。
法務省によりますと、全国の刑法犯の再犯者率は2020年に49.1%と過去最悪を記録し、再犯の防止が課題となっていて、高齢化や孤立化などを背景に福祉の視点を取り入れた支援が求められるということです。
受講を終えると「刑事司法ソーシャルワーカー」に登録することができ、弁護士の要請に応じて被告の弁護活動や立ち直りを支援することになります。
参加した50代の女性は、「知的障害がある人の就労支援をしている中で、社会福祉士という立場で何か違った関わり方ができるのではないかと思い、参加しました。ディスカッションの中でも新たな視点など、多くのことに気づかされました」と話していました。
また、60代の男性は「社会福祉士が関わることで本人が抱える問題を分析でき、よりよい福祉サービスにつなげられると良いと思います。今後の生活再建に向けた支援のため、刑事司法ソーシャルワーカーの活動がもっと必要になると思います」と話していました。
東京社会福祉士会司法福祉委員会の小林良子委員長は「生活困窮や認知症、障害などいろいろな生きづらさから事件を犯すことがあり、福祉の専門家が関わっていれば犯罪にはならないこともあると思います。社会福祉士が彼らの生きづらさに関わり、罪を犯さずに社会生活ができるようになればいいと思います。今後、こうした取り組みが広がっていくことを期待しています」と話していました。
“罪を犯した人を社会につなぎ直すことが大切”
19日の講座でグループワークの進行役として参加した刑事司法ソーシャルワーカーの橋本久美子さんは、罪を犯した人をもう一度社会や地域につなぎ直すことが再犯防止のためにも大切だと考えています。
橋本さんは、この講座が始まった当初の2015年に登録し、出産した赤ちゃんを殺害し遺体を遺棄した罪に問われた母親や、知的障害があり窃盗を繰り返す男性などの立ち直りに携わってきました。
取材した日は、認知症の妻を殺害した罪に問われている被告に拘置所で面会し、社会に復帰した後の生活や、どのような支援が必要なのかなどについて話をしました。
刑事司法ソーシャルワーカーは弁護士からの依頼に応じて起訴前の早い段階から面会などを重ねて立ち直りの計画を作成し、判決が確定したあとも自立の道筋が付くまで支援を行います。
時には被告の裁判を傍聴したり、立ち直りを保証するため証人として出廷したりすることもあり、支援内容は多岐にわたります。
橋本さんは、「被告と話すときは『あなたは1人ではない、放ってはおかない』というメッセージを伝え続けていかないといけないと思っています。罪を犯して社会に居場所がなくなってしまった人たちをもう一度社会につなぎ直し、生活を安定させることで、再犯を防ぐのが私たちの活動だと思っています」と話していました。
「再犯者率」2020年に過去最悪の49.1%
刑法犯で検挙された人のうち再犯者の割合を示す「再犯者率」は3年前の2020年に過去最悪の49.1%となり、2021年も48.6%と高止まりしています。
法務省によりますと、刑法犯で検挙された人のうち、65歳以上の高齢者が占める割合は2021年に23.6%で、割合が高まる傾向にあります。
刑務所に入所する高齢者の割合も増えていて、2020年は12.9%、2021年には13.8%になっています。
また65歳以上の高齢者が2年以内に再び刑務所に入る割合は、2020年には20.7%で、出所した人全体の15.1%に比べて、高くなっています。
2021年に刑務所に入所した人(1万6152人)のうち、15.3%にあたる2475人に知的障害や精神障害があるという統計もあります。
国は、ことし策定した「第2次再犯防止推進計画」で「福祉サービスの利用の促進」を重点課題の1つとし、刑務所などで社会福祉士などが関わって社会復帰に向けた指導を行うことや、保護観察所で必要に応じて住居や就労先の調整などの生活環境を整える支援を行うことなどを挙げています。
社会福祉士とは
社会福祉士とは、法律に基づく国家資格です。
福祉に関する専門的な知識をもとに、身体的、精神的な障害があったり、日常生活に支障があったりする人たちからの相談に応じて助言や指導を行うほか、福祉サービスや保健医療サービスにつなげるための調整や支援を行っています。
障害者支援施設や福祉事務所などさまざまな場所で働いています。
厚生労働省のホームページによりますと、去年9月末の時点で27万人余りが社会福祉士に登録しています。
触法高齢者・障がい者の問題は福祉的な関わりが必要なケースが多く、「刑事司法ソーシャルワーカー」の役割、社会における関心が今後高まってくるものと思われます。